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書誌情報
・タイトル:『なぜ東北は鬼門とされたのか 古代中国から平安京へ、文化の伝承とメタモルフォーゼ』
・著者:水野杏紀
・出版社:琥珀書房
・発売日:2025/7/25
・ページ数:224頁目次
プロローグ メタモルフォーゼの扉を開く
第一章 殷城(址)にみる東北斜め隅切の謎
第二章 鬼門誕生のなぞ―丑寅間は時空の境界
第三章 疫鬼と駆逐する呪力
第四章 式盤の宇宙と鬼門
第五章 中国における鬼門の変遷
第六章 平安京と鬼門
第七章 丑寅間の刻が一日の境界だった鎌倉・室町時代
第八章 江戸城の鬼門を鎮護
第九章 江戸時代、庶民に広まった鬼門
エピローグ 失われた土地の記憶を訪ねて
付論 鬼門の先行研究について
著者の鬼門研究関連の論文・著述
後註
あとがき
感想
東北の方向が鬼門であるという観念は、今日でも私たちの身近に残っています。
例えば家を建てる時に、東北方角を気にして間取りを考えたり、比叡山延暦寺が京都の鬼門を守っているという観念もよく耳にします。
京都の街なかを歩けば、敷地の東北角を切り落とした「隅切り」をしているのを見かけますが、これは鬼門の悪い影響を封じるための「鬼門除け」と呼ばれます。
このように鬼門は、災厄や不吉なものが出入りすると考えられてきた方角のことです。
本書ではそんな「鬼門」の来歴を多数の文献と図版を基に丹念にたどっていきます。
その起源は古代中国に求められ、後漢に言葉として初めて現れるそうですが、東北を特異な方角として捉える観念はすでに殷代から存在していました。
もともと東北が日の出と結びつく象徴的な方角として特別視されていたのが、古代の宇宙観と結びついていきました。
その中で時間と空間それぞれの境目というイメージから重要視されるようになり、鬼門が概念が徐々に成立していきました。
このように本書では鬼門の成立過程と古代中国の思想との関連が詳しく分析されています。
著者によると、古代中国での鬼門の成立を専門的に論じた研究は今までなかったとのことで、とても貴重な内容となっています。
さらに本書の後半では、平安京の都市設計や寺社の配置、さらには陰陽道や民間での信仰との関わりなど、日本での展開が語られ、中国での形から自立した独自の信仰へと変容していきます。
迷信として片づけられがちな鬼門が、実は人々の世界認識や都市のかたちに深く関わってきたことを、本書は静かに教えてくれます。
その実態は複雑で豊かな世界をもっています。
一つの方位を巡る歴史の背後に、これほど重層的な文化の記憶が息づいていることに驚かされる一冊です。
おすすめの人
・古代中国史、日本史に興味のある人
・陰陽道や民俗学に興味のある人