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『中華とは何か―遊牧民からみた古代中国史』

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書誌情報

・タイトル:『中華とは何か―遊牧民からみた古代中国史』
・著者:松下憲一
・出版社:筑摩書房
・レーベル:ちくま新書
・発売日:2025/5/9
・定価:980円+税
・ページ数:288頁

目次


はじめに
第一章 中国史にとっての遊牧民
第二章 中華文明の成立と夷狄
第三章 中華古典世界と夷狄
第四章 中華と夷狄の対峙
第五章 夷狄を内包する中華世界
第六章 夷狄による中華の再生
第七章 新たな中華の誕生
あとがき

感想

「中華とは何か」という言葉を聞いた時、私たちは中国文明の悠久の歴史や強力な中央集権国家というイメージを抱きがちではないでしょうか?

しかしその成り立ちを改めて問うと、実は極めて複雑で、多様な要素が絡み合っていることがわかります。

本書ではこの多様な要素を解きほぐすことが目的であり、古代から続く「中華」という概念を、周辺に生きた遊牧民の視点から捉え直しています。

著者は魏晋南北朝時代を専門としており、特に北方民族に関わる政治・社会史や遊牧民の活動、北魏王朝下における支配体制などの研究をしておられます。

「中華」という概念は、漢民族のみで作られてきたと思われがちですが、実際には遊牧民がその一部となりながら、その本質の成立に大きく関わっている。

これが本書の一番のポイントではないかと思います。

「中華」は内側の自称ではなく、外部との総合作用から形成された概念なのです。

またそれは「文明対野蛮」という単純な二項対立ではなく、むしろ交流と対立のなかで形作られてきました。

上記の論旨を説明するため、本書では先史時代以前から中国文明と遊牧の発生を追い、各時代を経て、隋唐までを丹念に考察します。

その中でいかに中国文明と遊牧民が相互に影響しあい、「中華」という概念が出来上がっていったかが語られます。

本書では中国史を内側からだけでなく「外側」捉えていることが、新鮮さを感じさせます。

また固定観念的な「中華文明=優越的中心」という味方を相対化している点も面白いと思いました。

専門的な部分もあり、歴史を詳述する必要上、教科書的に感じる部分も少しありましたが、新書として十分に読みやすく、何より面白い内容でした。

「中華とは何か」という問いは、決して古代史だけでなく、現在の中国や東アジア情勢を理解するためにも重要です。

漢民族が決して単一民族ではないこと、遊牧民との複雑な関係は現代の外交と重なることなど、示唆的であります。

そのため、歴史好きだけでなく、現代情勢に興味のある人にも十分おすすめできます。

ぜひとも手にとってみてください。

あと一冊

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ポイント

まさに本書に沿うような、三国志の時代を各異民族との関係から詳述した書です。北から南まで、三国志の武将たちが異民族と大きく関わっていることを明らかにしています。

  • この記事を書いた人

yutoya

書肆北極点店主。本を紹介する人。本が好きです。一冊読んだら十冊読みたくなる、本がつながっていく感じも好きです。

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