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『「手に負えない」を編みなおす』

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書誌情報

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・タイトル:『「手に負えない」を編みなおす』
・著者:友田とん
・出版社:柏書房
・発売日:2025/12/26
・ページ数:248頁

目次

まえがき
第一部 地下鉄にも雨は降る
 第一回 探しものはなんですか?
 第二回 上を向いて歩こう
 第三回 この恍惚を味わいたかったのかもしれない
 第四回 管理台帳の姿を想像しながら
 第五回 地方の地下鉄も見に行く
 第六回 手に負えない
第二部 手に負えないものたちと暮らしてみる
 第一章 さかのぼる
 第二章 見る
 第三章 作る
 第四章 編みなおす
あとがき

感想

地下鉄の駅の中を歩いていると、時々出くわす「漏水対策」。

天井をビニールで囲い、水を壁に伝わせるなりして、通路端の水路へと導く、あれの簡易的な処置です。
場合によっては大掛かりになったり、堅固な場合もあります。

本書はその「地下鉄の漏水対策」に着目するところから始まります。

著者は数年来の「地下鉄の漏水対策」観察者。

駅構内を歩いていて、漏水対策が施されている箇所を見つけると、足を止め、写真に収め、細部まで観察します。

ビニールテープに手書きで通し番号が書かれているのを見つけ、背後にある管理台帳の書式まで思いを馳せる。

あまりに独特な視点が著者のすごいところ。

しかし著者は観察にとどまりません。

そこから思索を始め、ついには「手に負えない」という概念に到達します。

「手に負えない」とは、単に困難だという意味ではありません。

人の力で完全に制御できず、解決や完結を拒むもののことです。

地下鉄の漏水は、修理して終わり、ではありません。

完全には止められず、そのたびに応急処置を重ねながら、なんとか共存していく。

その姿に著者は、誰かによって維持されているインフラの存在を見出します。

本書で描かれるのは、「問題を解決する」物語ではなく、「手に負えないものと関係を結び直す」試みです。

漏水対策という一見地味な対象から始まり、言葉、記憶、制作、書くことへと話題は移っていきますが、そこには一貫して、世界を思い通りにできると思わない態度があります。

うまくいかないこと、説明しきれないことを、無理に片づけず、いったんできるところから手をつけていく。

そして著者は、本書の後半でこの「手に負えない」を深く考えていきます。

さかのぼり、見て、作る中でたどり着いた答えはどんなものなのでしょうか?

果たして「手に負えない」を編みなおすとはどういうことなのでしょうか?

本書は、私たちの「手に負えない」に囲まれた人生を静かに励ましてくれる本だと思いました。

多くの人に、立ち止まって考えることの大切さを教えてくれます。

様々な人に読んでもらいたい一冊です。

おすすめの人

・目の前の仕事の大きさに押しつぶされそうな人
・日常を考えることが好きな人

あと一冊

ポイント

『「手に負えない」を編みなおす」を読んでいて、なんとなくこの本を思い出しました。「手に負えない」をなんとかやりくりしようと思っても、その人間らしい試み自体を無効化される。それはとても重大な人間性の侵害なのではないでしょうか。

  • この記事を書いた人

yutoya

書肆北極点店主。本を紹介する人。本が好きです。一冊読んだら十冊読みたくなる、本がつながっていく感じも好きです。

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