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書誌情報
・タイトル:『沈黙の中世史 感情史から見るヨーロッパ』
・著者:後藤里菜
・出版社:筑摩書房
・レーベル:ちくま新書
・発売日:2024/7/10
・定価:1000円+税
・ページ数:279頁目次
はじめに
第一章 祈りと沈黙
第二章 統治の声の狭間で
第三章 感情と声、嘆き、そして沈黙
第四章 聖と俗
第五章 聖女の沈黙
第六章 沈黙から雄弁へ
第七章 沈黙を破る女
おわりに
読書案内
あとがき
感想
本書は、中世のヨーロッパの世界を「沈黙」という視点から読み解いていく本です。
なぜ「沈黙」がテーマになっているか。
そもそも中世においては「叫び」が重要な役割を果たしていたからです。
この前提がは全編を通して語られており、領地の支配や神への信仰の表現は弁舌や説教などの「叫び」によって行われていました。
しかしその一方で、そうして「叫び」を発することができなかった人びちも存在しました。。
例えば、女性や聖書を読めない貧しい人々です。
彼らは社会の中で自らの存在を主張することが許されず、「沈黙」を強いられていました。
本書では、このような「沈黙」していた人々が。いかにして「叫び」へ転換したかに多くのページが割かれています。
中世盛期において、「沈黙」していた女性や貧しい人々が「叫び」出していることを文学作品や宗教的なテキストから読み取ります。
そこに描かれる世界は騒々しく、決して彼らが弱いだけではなく、実は豊かな内面や強い意志を持っていたことを示しています。
著者のこの言葉が本書の面白さを説明します。
沈黙と銘打ちながらも、祈る人も戦う人も働く人も、祈り、嘆き、叫び、あちこちで喋り出すことをやめない本書をとおして、中世ヨーロッパ世界の面白さを感じてもらえれば幸いである。(「おわりに」より)
まさにこの言葉の通り、本書は中世ヨーロッパの多層的な声と姿を描き出しており、この時代がいかに豊かで複雑であったかを教えてくれます。
この騒々しい中世がやがて近世へと繋がっていくのだと思います。
中世ヨーロッパ史に関心のある方はもちろん、キリスト教神秘主義、女性史などに興味をお持ちの方にもおすすめです。