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書誌情報
・タイトル:『力なき者たちの力』
・著者:ヴァーツラフ・ハヴェル(著),阿部賢一(訳)
・出版社:人文書院
・発売日:2021/6/18
・ページ数:154頁目次
力なき者たちの力(一~二十二)
[資料]憲章七七
解説(阿部賢一)
訳者あとがき
感想
世界の政治・経済・社会について関係者が一堂に会して語り合うダボス会議が行われています。
今回、会期二日目に、カナダのカーニー首相が行ったスピーチが世界で話題になりました。
混迷する現在の国際情勢について、新しい時代の到来を宣言する内容です。
それは、大国による自己中心的な行いが常態化し、今まで世界を守ってきた「ルールによる国際秩序」は終焉を迎えているという、決して楽しくはない指摘でした。
この演説の中で、引用されて話題になったのがヴァーツラフ・ハヴェルの『力なき者たちの力』という書籍です。
著者のヴァーツラフ・ハヴェルは、チェコスロヴァキアの劇作家であり、共産党独裁体制に抵抗した反体制知識人として知られています。
後に民主化を成し遂げ、大統領にまでなった人物ですが、本書が書かれた1978年当時の彼は、権力から見れば「力なき者」の側にいました。
本書は、1968年のプラハの春の挫折後、抑圧が「日常化」した1970年代チェコスロヴァキアで書かれた思想的エッセイです。
本書の中でハヴェルは、全体主義体制がどのように維持されているのかを、青果店の例えを用いて説明します。
店主は心から信じてもいないスローガンを店先に掲げます。
それは思想への共感ではなく、波風を立てずに生きるための行為にすぎません。
しかし、その「何となく従う」態度の積み重ねこそが、体制を内側から支えているのだとハヴェルは指摘します。
重要なのは、体制の力が暴力だけによって成り立っているわけではない、という点です。
人々が嘘だと知りながら嘘の中で生きることで、虚構は現実として機能してしまいます。
しかし、もし誰かがその看板を下ろし、「真実の中で生きる」ことを選択すれば、体制は思いのほか脆い姿を見せる。
それが本書の核心です。
カーニー首相がこの本を引用した理由も、そこにあるのだと思います。
今の国際社会は、誰もが建前でルールを語りながら、実際には力の論理に従っている。
その状況に対し、中堅国や企業、市民が「仕方がない」と安易に従い続ける限り、秩序の崩壊は止まりません。
本書は、冷戦期の東欧で著されていながら、現代の私たちの心にも訴えかけます。
巨大な権力に抗うストーリーではなく、日常の小さな選択が社会を形作っていることを静かに教える一冊です。
カーニー首相の演説で知ったこの本は今、再び読まれる価値があると強く感じました。
おすすめの人
・現代の国際情勢や政治の変化に興味のある人
・ポスト全体主義体制と向き合う人
・冷戦期東欧の思想に興味のある人