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書誌情報
・タイトル:『ビールに憑かれた人びと ラガービールと近代ドイツ社会』
・著者:東風谷太一
・出版社:青土社
・レーベル:
・発売日:2025/5/26
・定価:3400円+税
・ページ数:336頁目次
序章 第一章 醸造所は誰のもの?—都市醸造業と「物の権利」
第二章 モンジュラの醸造所—営業の自由化とジョッキの権利の変質
第三章 ビールによって生きる—一八四四年ミュンヒェンのビール騒擾
第四章 ビールをめぐる異議申し立ての拡散—騒擾と不買の連鎖
第五章 ズューフィッヒの愉悦—ラガービールの流行
第六章 北上する政治文化—フランクフルトの「ビール騒擾」と「ベルリン・ビール戦争」
終章
あとがき
感想
本書は、19世紀の南ドイツ・バイエルン地方を中心に、ビールがどのような政治的意味をもっていたのかを分析する書です。
事実としては、1844年にミュンヘンでビールにまつわる騒擾が起き、そして1894年にベルリンでやはりビールにまつわる騒擾が起きたという話です。
しかしこの50年の間や、または前後には社会や文化にさまざまな変化がありました。
そもそもミュンヘンの人々にとって、ビールは単なる嗜好品ではありませんでした。
それは「食糧」として生活に根付いており、また人と人とを結びつける「媒体」として、社会に浸透していました。
さらにミュンヘンではビール醸造所の経営権が販売されていました。
こちらも詳細に検証すると、それは単なる経営する権利ではなく、暗黙に義務を伴った権利であったことがわかります。
このようなミュンヘンにおけるビールのあり方をみていると、当時の社会にはかなり中世的な制度や価値観が色濃く残っていたんだなと私は思いました。
一方で、本書の舞台となる19世紀は、資本主義の発展や社会運動の活発化など社会全体が近代的なシステムに移行する時期でありました。
こうした社会構造の変化が、ビールを取り巻く環境に大きな変化をもたらします。
本書の後半では、1844年の騒擾でみられたビールの特質が、1894年の騒擾では全く違う性質のものになっていることが語られます。
それはビールがただの飲み物ではなく、社会や人々の関係と密接に結びついたものなのだということを教えてくれるのです。
ビールの歴史に興味のある人はもちろん、近代史に興味のある方にはおすすめです。