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『組織は倫理をないがしろにする 戦略的に「誠実性」をデザインする』

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書誌情報

・タイトル:『組織は倫理をないがしろにする 戦略的に「誠実性」をデザインする』
・著者:ロバート・チェスナット、ジョアン・O'C・ハミルトン(著),並木将仁(監訳),松山宗彦(翻訳)
・出版社:日経BP
・発売日:2025/10/4
・ページ数:493頁

目次

監訳者はじめに 倫理は、すべてのビジネスパーソンの「自分ごと」
イントロダクション 手をあげてみてくれないか? 誠実性への新たなるアプローチ
第1章 6つのC 組織で誠実性を育てるためのステップ
第2章 誠実性はトップから始まる
第3章 誠実性が組織にとって何を意味するか決め、規則を定める
第4章 誠実性が問われる10のカテゴリー
第5章 誠実性を組織に浸透させる
第6章 問題を誰もが安全に報告できるしくみを作る
第7章 誠実性に反する行為を処分する
第8章 あなたの会社は「アラーム」を備えているか
第9章 絶対避けて通れない「セクシャルハラスメント」
第10章 誰とビジネスするかの決断が、あなたが何者かを決める
結論 勇気と決断で「誠実性」を守ったほうが、はるかに見返りがある
追記

感想

著者は長年にわたり法務チームを率いて、数多くの企業や非営利団体に助言を行ってきました。

さらにイーベイやエアビーアンドビーなどにおいて法務。倫理コンプライアンスを担当しており、その豊富な実務経験を背景に本書を書きました。

ここ数年、ニュースでは企業の不祥事が絶えず報じられ、多くの組織が自らの価値を大きく毀損してきました。

著者は企業がそのような事態に回避するために最も重要なのが、インテグリティ、即ち「誠実性」だと強調します。

本書は倫理論の抽象的議論ではなく、誠実性をいかに組織に根づかせるかという具体的な実務書として構成されています。

本書を読めば、なぜ「誠実性」は企業経営にとって重要なのか、戦略的に「誠実性」をデザインするとはどういうことなのかを理解できるでしょう。

著者は、組織に「倫理」を実装するために取り組むべき6つのCを挙げています。

それは、「①トップ」「②カスタマイズされた企業倫理」「③規則を周知させるコミュニケーション」「④明快な報告システム」「⑤処分」「⑥持続性」の6点です。

本書はこれらをどのように実現し、組織文化として定着させるかを丁寧に解説します。

繰り返し本書で登場するのが、「誠実性の罠」という言葉です。

「誠実性の罠」とは、自分は誠実だという思い込みが判断を正当化してしまう心理現象です。

誠実さへの自信が、ルール違反や誤った選択さえ“正しい”と錯覚させる点に危うさがあります。

これは誰もが陥りがちなことですが、著者は企業で働く人が誠実性の罠に陥らない方策の一つが「明確なルール」だと主張します。

驚くべきことに、エアビーアンドビーでは幹部メンバーと従業員の恋愛を禁止しているそうです。

そこまでするのかと思う一方で、昨今の企業不祥事の内容を考えると、このルールは大きな効果を発揮するだろうなとも思います。

少し前に、ある会社のCEOが不倫相手の部下と野球観戦に行き、テレビ中継に写ったために不倫が公になり、最終的に会社を解雇されたという事件がありました。

本書を読んだ後なら、そのCEOの行為がいかに問題のあることだったのかがよく分かります。

また以下のルールも、厳しいですが明確で効果がありそうです。

「基本的にはエアビーアンドビーの職員が2人以上いれば職場とみなすし、職場におけるルールがそこには適用されるのである」

曖昧さを不祥事の温床になることを許さないためには、ここまでルールを明確にする必要があるのだと痛感させられました。

本書はかなり具体的に倫理的企業の作り方を教えてくれますが、それは手段であって目的ではありません。

現代の企業は倫理を重視した経営を行わなければ、いつか、いとも簡単に恐ろしい罠にかかり、全てを失うことさえあリます。

本書は、これからは積極的なリーダーシップで倫理的な経営を実現した企業こそ成長し続ける企業となることを教えてくれます。

いえ、すでに世の中はその方向で動いているようです。

文中でこのような言葉が紹介されています。

「ベンチャーキャピタル業界の人たちも、企業が成功するかどうかを予測する指標として、創設者の倫理観に注目し始めていると言ってます」

倫理は「当然守るべきもの」から、「競争優位を生む資源」へと変わりつつあるのです。

組織に関わる全ての人に読んでもらいたい一冊です。

倫理は、もはや企業の周辺的なテーマではありません。

組織の未来を左右する核心そのものだと、本書は力強く教えてくれます。

おすすめの人

・企業、組織に関わる全ての人
・企業不祥事に興味のある人、現在関わっている人

あと一冊

ポイント

ハラスメントの境界線って難しいですよね。その境界線を解説した一冊です。自分のことを振り返ってみましょう。

  • この記事を書いた人

yutoya

書肆北極点店主。本を紹介する人。本が好きです。一冊読んだら十冊読みたくなる、本がつながっていく感じも好きです。

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