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『森を焼く人 自然と人間をつなぎ直す「再生の火」を探して』

2025年8月30日

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書誌情報

・タイトル:『森を焼く人 自然と人間をつなぎ直す「再生の火」を探して』
・著者:M・R・オコナ―(著),大下英津子(訳)
・出版社:英治出版
・発売日:2025/5/21
・定価:2700円+税
・ページ数:480頁

目次

プロローグ 森と火と人との関係性を問い直す
第1章 プレーリーの土
第2章 まず、雷があった
第3章 炎に魅せられて
第4章 のたうちまわる巨大な蛇
第5章 別世界からの使者
第6章 汚れた8月
第7章 想像がつくことはすべて起こった
第8章 「火新世」を生きる
第9章 抵抗か、受容か、方向転換か
第10章 竜の卵と石鎚
第11章 美しくて正しいもの
第12章 白い鹿の土地で
第13章 ともに捧げる祈り
エピローグ 火と手を取り合い、大地に躍る

感想

この10年で急激に増えているものの1つに森林火災があります。

頻繁に起こるようになっただけでなく、大型化し、かつ長期間化しているように見えます。

では、なぜこれほどまでに増加しているのでしょうか。

その疑問を持って手にとったのが本書です。

著者はオーストラリアへの取材の際に焼かれた森に出会い、最初は「なんてひどい状態だろう」と思ったそうです。

しかし地元住民から、それは意図的につけられた火だと教えられます。

これが著者と「計画的火入れ」との出会いでした。

著者は「計画的火入れ」をもっと知りたいと思い、森林火災消防士としてのキャリアを始めました。

その中で「火」の持つ魅力、そして「計画的火入れ」の大きな可能性を見出していくのです。

本書を通じてわかったのは、大規模な森林火災の原因は単純に気候変動だけではないということです。

アメリカではかつて先住民が定期的に火を入れることで森を健全な状態に保っていました。

しかし、先住民の土地は取り上げられ、様々な要因から植民者は森に火を入れなくなりました。

その結果、森を燃える燃料だらけの状態になり、一度火がつけば止まらなくなったのです。

簡単に説明すればそういうことですが、実際には極めて複雑な要因が絡み合っています。

著者はその背景を丁寧に取材し、本書にまとめています。

本書で初めて知って、印象的だったのは森林火災消防士の存在です。

大きな森林火災の最前線では、彼らが文字通り命を懸けて火の拡大を食い止めているのです。

本書では著者自ら森林火災消防士としてアメリカ各地で消火活動に参加し、現場の消防士の声を丹念に記録しています。

特に第5章、第6章の消火作業現場の描写は圧倒的な迫力があり、強く引き込まれました。

大規模な森林火災はアメリカやオーストラリアで起きているイメージが強いですが、近年は日本でも発生しています。

本書は、まだ大型森林火災が多くない日本にとっても示唆に富む内容だと感じます。

また、この「自然と人と火」の関係は、日本におけるクマを巡る問題に似ているようにも思えます。

クマ問題もまた、「自然と人とクマ」との関係のバランスが崩れたことが根本原因であり、大きな視点からの解決が求められているのです。

ところで本書を読み終わって、訳者あとがきで気が付いたのですが、著者は『WAYFINDING道を見つける力』の著者なんですね。

非常に力のあるノンフィクション作家だと思いました。

数字などで語られがちなアメリカの森林火災を、血が通った物語にしているのは著者の力量ですね。

多くの人に読んでもらいたい本です。

あと一冊

ポイント

著者が『森を焼く人』の前に著した本です。「GPSが現れる前、人はどうやって移動してきたか。」「GPSが現れたことで我々人間はどう変わったのか。」こういった疑問の答えにたどり着くため、イヌイットやミクロネシアの船乗りなど様々な人に会いに行きます。とても面白い本でした!

  • この記事を書いた人

yutoya

書肆北極点店主。本を紹介する人。本が好きです。一冊読んだら十冊読みたくなる、本がつながっていく感じも好きです。

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