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書誌情報
・タイトル:『ミッション・エコノミー 国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた』
・著者:マリアナ・マッツカート(著),関美和、鈴木絵里子(訳)
・出版社:ニューズピックス
・発売日:2021/12/22
・ページ数:314頁目次
はじめに
第1部 世界の「今」を理解する――次なるムーンショットに立ちはだかるものとは?
第1章 政府・企業・資本主義をつくり直す
第2章 危機に瀕した資本主義
第3章 新自由主義の間違い
第2部 ミッション・ポッシブル――大きな夢を実現するために必要なこととは?
第4章 いま、アポロ計画こそが「最高の教訓」である
第3部 ミッションを実装する――今、私たちが取り組むべき壮大な課題とは?
第5章 課題起点のミッションマップをつくる
第4部 ミッション経済の時代がはじまる――私たちの未来を問い直す
第6章 理論と実践――政治主導のあらたな経済の7原則
第7章 新しい資本主義へ
感想
本書は、2021年に出版された本です。
最近読んだ「GROWTH」の中で著者について言及されていて気になったので手に取りました。
本書では資本主義が行き詰まりを見せる現代において、「政府とは何をするべき存在なのか」を根本から問い直しています。
著者のマリアナ・マッツカート氏は経済学者で、現在はロンドン大学の教授を務めるとともに、Institute for Innovation & Pubilic Purposeの創設ディレクターとして活躍しています。
世界各国の政策に関与してきた彼女の主張は、「新しい資本主義」です。
それは、国家が市場の単なる調整役にとどまらず、市場そのものを形づくる主体として位置づける、という考え方になります。
「起業家」としての政府は「最初の投資家」としてリスクを引き受け、明確な「ミッション」を掲げながら、政策で人や組織を巻き込み、イノベーションと経済成長を促します。
そして、その成果は企業だけではなく、納税者を含む社会全体に還元されるべきだと言います。
本書は、ミッションの重要性が具体的な政策論として展開されます。
ミッションとは、気候変動や公衆衛生といった複雑で分野横断的な社会課題に対し、「何を達成するのか」という明確な到達点を掲げ、官民の投資、研究、制度設計を目標に向かって束ねていく枠組みです。
その成功例として、本書で検証されるのが「アポロ計画」。
アポロ計画とは、60年代にアメリカが進めた有人月面着陸計画です。
1961年、ケネディ大統領が「10年以内に人類を月に送り、無事に帰還させる」という明確な目標を掲げ、国家主導で巨額の予算と人材を投入されました。
NASAを中心に政府、企業、大学が連携して技術開発が進められ、その結果、1969年にアポロ11号が月面着陸に成功しました。
この計画は月面着陸そのものだけではなく、多くの新しい技術を生み出し、後に科学技術が飛躍的に成長するきっかけとなりました。
重要なのは、本計画において政府が「最初の投資家」として不確実性の高い領域に踏み出す役割を担った点です。
新自由主義的な発想では、政府の介入は非効率で民間の活力を阻害するとされがちですが、著者はこれを強く否定します。
政府の戦略的投資は民間投資を締め出すどころか、むしろ呼び込み、イノベーションの土台を形成したと論じます。
また本書は、「価値とは何か」についても問いかけています。
短期的な利益や株主価値だけでなく、公共の目的にどれだけ貢献したかを成果として評価し、その利益を社会全体で分かち合う仕組みが必要だという主張は、今の資本主義に対する厳しい批判です。
そのために、政府自身が能力を高め、民間と対等なパートナーとして協同できる組織へと変貌しなくてはならない、と著者は指摘します。
本書は決して政府が万能だと言っているわけではありません。
むしろ、政府が果たすべき責任の重さと難しさを直視した上で、それでもなお「共通善」に向けて社会を動かすことを主張した書です。
政治や経済のあり方に疑問を感じる全ての人に読んでもらいたい本です。
おすすめの人
・政治や経済のニュースに違和感を覚えている人
・公共政策、行政、産業政策に関心のある人
・資本主義の未来を考えたい人