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書誌情報
・タイトル:『オスマン帝国は、いかに「中世」を終わらせたか コンスタンティノープル征服』
・著者:小笠原弘幸
・出版社:NHK出版
・レーベル:教養・文化シリーズ 世界史のリテラシー
・発売日:2024/11/9
・定価:1100円+税
・ページ数:162頁目次
はじめに
第一章 事件の全容 メフメト二世、いかにしてコンスタンティノープルを陥落させたのか?
第二章 歴史的・宗教的背景 辺境に登場した戦士集団は、宗教的混淆のなかから台頭した
第三章 同時代へのインパクト メフメト二世は、オスマン帝国の礎をいかに築き上げたか?
第四章 後世に与えた影響 オスマン帝国は、なぜ六百年も存続したのか?
おわりに
感想
オスマン帝国は、いかに「中世」をおわらせたか。
本書ではこの疑問に端を発して、600年続いた大国・オスマン帝国について1453年のコンスタンティノープル陥落を中心に考察します。
しかし「はじめに」でいきなりはしごを外されます。
中世から近代への移行は、特定の事件に帰されるものではなく、十四世紀から十六世まで続く長い変化の結果であった、と見なすべきでしょう。
はじめに(3頁)
著者はこのタイトルを新時代を示す象徴的な意味としています。
本書の目的は、コンスタンティノープル征服はどのような事件だったのか、そしてそれに続く新時代がどのようなものであったか、を示すことにあります。
はじめに(4頁)
コンスタンティノープル陥落は、東ローマ帝国の終焉として数多くの書籍で取り上げられていますが、それをオスマン側からの視点でわかりやすく解説した本は多くありません。
この点で本書は貴重な本と言えます。
オスマン帝国に攻略される前のコンスタンティノープルは、約千年にわたり、東ローマ帝国の首都として栄えてきました。
東ローマ帝国は初期には広大な版図を誇っていましたが、イスラム革命以降、ムスリム国家からの侵攻を受け続けてきました。
そしてその最終局面ともいえる出来事がオスマン帝国によるコンスタンティノープル陥落でした。
この出来事はヨーロッパ世界に大きな衝撃と危機感を与え、その後の歴史に深く影響しました。。
本書ではそこに至った経緯と、その後の影響について丁寧に解説されています。
個人的に印象に残ったのは、メフメト二世がコスモポリタンな人物だったという指摘です。
この本では、ヴェネツィアから画家を呼び寄せて自らの肖像画のみならず、聖母子像まで描かせたという話が紹介されています。
またギリシアやローマの古典文化に興味を持ち、さらにはキリスト教に関する講釈を受けていたそうです。
現代人は十字軍対イスラムのような単純な対立構図で理解しようとしてしまいがちですが、実態はとても複雑で豊かな精神文化があったのだなと感じます。
それと驚いたのは、ルーマニアのヴラド三世やアルバニアのスカンデル・ベグがムラト二世に小姓として仕えていたという話です。
後にオスマンと戦う英雄たちの経歴としては意外に思えますし、この辺りにもオスマン帝国の懐の深さが出ているように感じました。
全体として丁寧で充実した内容で、ヨーロッパや中東の中世史・近世史に興味のある方におすすめできる一冊です。
ぜひとも読んでみてください。