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書誌情報
・タイトル:『再公営化という選択 世界の民営化の失敗から学ぶ』
・著者:岸本聡子,オリビエ・プティジャン(編)
・出版社:堀之内出版
・発売日:2019/6/30
・定価:1800円+税
・ページ数:188頁目次
インフォグラフィックス 世界の公共サービスの(再)公営化
はじめに 語られていない話
第1章 フランスの再公営化―民間の失敗を経て、民主的で持続可能な公共サービスを地域で再構築する
第2章 ラテンアメリカにおける再国有化の今日的な動機
第3章 貿易投資協定に署名できない835の理由
第4章 ノルウェーー社会サービスを自治体の手に取り戻す
第5章 ドイツ&オーストリアー労働者にとっての再公営化
第6章 潮流に抗するインドの脱民営化―すべての人に不可欠なサービスを
第7章 官民連携の危険な幻想を解明する
第8章 私たちの送電網―ドイツにおけるエネルギーの再公営化動向
第9章 30年の民営化を経て―公的所有が政治的課題となったイギリス
第10章 スペイン、カタルーニャ地方―民主的な公営水道を取り戻す市民運動の波
まとめ 公共サービスの未来を創り始めた自治体と市民
付録1 (再)公営化リスト
付録2 (再)国営化リスト
付録3 調査方法と参加型調査
感想
公共サービスの扱いに苦慮する自治体が選択する手段の一つに、民営化があります。
この数十年間、多くの自治体で公共サービスがさまざまな形で民間へと移管されてきました。
それは日本でも変わらず、国鉄や郵便など数えきれないほどの事例があります。
しかし本書では、民営化とは逆の「再公営化」の事例が増えていることが語られます。
その事例はヨーロッパに多いですが、それ以外にもインドや南米など世界各地で起きています。
本書の調査では835件のケースが確認できたそうです。
一般に民営化のメリットによくあげられるのは効率化やサービスの向上、料金値下げなどですが、本書によると民営化したからといって必ずしも実現できているわけではないようです。
むしろ再公営化した結果、黒字に転換したケースも存在し、民営化が必ずしも正解とは思えません。
本書が強調するのは、公共サービスは単なる採算性だけでは測れない価値があるという点です。
住民の生活基盤を支えるインフラや社会的弱者への保障といった要素は、利益追求を目的とする企業活動とは根本的に相容れない場合があるのです。
例えば水道事業や電力供給のように安定性と公平性が求められる領域では、利益より「誰もが平等に利用できること」が重要視されます。
また再公営化を進めた自治体の多くは、住民参加や透明性の確保に努めており、単に経営の担い手を行政に戻すだけでなく、より民主的な運営を模索している点が興味深いといえます。
それは地域住民の手に生活や環境、経済に対するコントロールを取り戻し、より地域に対する愛着や責任感を取り戻す契機にもなるでしょう。
本書はこうした世界各地の事例を豊富に紹介しつつ、民営化か再公営化かという二者択一ではなく、「公共のあり方」を問い直す場を与えてくれます。
読者は効率や利益のみを追う発想に縛られず、地域社会にとって望ましい公共の姿を改めて考えるようになるでしょう。
市民が自分たちの意見を表明する権利が軽視されがちな今こそ、本書を通じて生活者が主体的に政策を提案していくことの重要さを再確認しました。
こうした書籍が出版され続ける限り、出版業界はまだまだ輝いていくと思います。