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書誌情報
・タイトル:『絶滅しそうな世界の文字』
・著者:ティム・ブルックス(著),黒輪篤嗣(訳)
・出版社:河出書房新社
・発売日:2025/10/28
・ページ数:256頁目次
イントロダクション
AFRICA
ASIA
EUROPE AND THE MIDDLE EAST
SOUTH ASIA
SOUTHEAST ASIA
INDONESIA AND OCEANIA
THE AMEICAS
BEYOND THE ALPHABET アルファベットではない文字
感想
以前、「アフリカでは今も新しい文字体系が次々と生み出されている」という話を聞いたことがあります。
文字とはすでに固定されているものという勝手なイメージがあり、まさか新しいものが作られているとは、不意打ちされたような気持ちになりました。
それと同時に半信半疑でもありました。
そんなに簡単に文字体系が作れるものかと。
しかしそんな疑問も本書を読み進めるうちに解消されました。
アフリカではこの2世紀の間、文字体系が何個も生まれていたのです。
それどころか、著者が「本書の執筆を始めてからすら、インドで3つ以上、アフリカで2つ以上の文字体系が新たに誕生した」そうです。
驚きですね。
本書は、その逆の流れ、つまり今や継承者が少なくなり絶滅しそうになっている文字体系を世界中から集めた本です。
絶滅しそうな「言語」の本は多数出ていますが、「文字」を主人公にした本というのはかなり珍しいのではないでしょうか。
書名だけ見るとマニアックですが、中身はかなりドラマチックな一冊です
本書では、世界各地の83の文字体系が地域ごとに整理されて紹介されています。
これだけの多様な文字が並んでいると見ているだけで飽きません。
次々と見知らぬ文字が現れ、そこに込められた意図や歴史を知ることで、読者は「文字とは何か」という根本的な問いに向き合うことになります。
意味や音が分からないのに、そこには何らかの意図が感じられ、それが絵ではなく「文字」なのだとわかるのは不思議な感じがします。
本書に出てくる多くの文字を巡る歴史は、民族の歴史や政治は文字と結びついているということを教えてくれます。
支配側は民族の象徴である文字を奪うことで支配を強化でき、また反乱などのリスクを減らせます。
一方、自分の言語に専用の文字を持つことは民族にとって大きな誇りで、それは言語とともに民族自決の象徴なのだということを本書は明らかにしています。
それにしても本当に世の中には想像もしないような多様な文字が存在していて、世界は広いなと思わされます。
例えば中国四川省にある文字では、インクの色の違いで意味が変わるそうです。
色彩が文法の一部を成すという発想は斬新です。
またキューバのある宗教の祭司が使う文字は、文字というのにあまりに絵的で複雑で、アートとの境目が曖昧です。
本書で紹介されている文字たちが、絶滅に追い込まれているのは確かです。
一方でそれぞれの文字に、その文字を守ろうとする人が少なからずいる、という印象も受けました。
こういった人たちの力で様々な文字の生命が延ばされていることがわかります。
むしろ少しずつ復活しているケースもありました。
インド・マニプール州のメイテイ文字は18世紀に一度滅びながら、この数十年で様々な人の努力により、復活しました。
これはメイテイ族の学者が復活に取り組み、活動家たちの長年の運動によって実現したそうです。
決して諦めてはならないことを強く感じました。
本書を読んで、文字が決して音や意味だけを表すのではなく、もっと豊かなものだということを考えさせられました。
文字は文化の容器であり、記憶の器であり、共同体の祈りの形そのものでもあります。
だからこそ、それが消えるとき失われるものはあまりに大きいのだと思います。
本書はそのことを我々に問いかけてきています。
美しい装丁とデザインで見てるだけでも楽しいので手にとってみてください。
おすすめの人
・文字に興味のある人
・民族紛争に興味のある人
・世界史に興味のある人