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『赤松一族の中世』

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書誌情報

・タイトル:『赤松一族の中世』
・著者:前田徹
・出版社:吉川弘文館
・レーベル:歴史文化ライブラリー
・発売日:2025/9/1
・ページ数:285頁

目次

播磨における赤松氏―プロローグー
鎌倉時代の赤松氏を探る
南北朝内乱と赤松円心
観応の擾乱と則祐
赤松一族の展開と嘉吉の乱
政則とその妻洞松院局
赤松氏の終焉
赤松一族の昔語り―エピローグー
あとがき
主な参考文献

感想

赤松氏は戦国時代の山陽地方東部に根ざした勢力ですが、中世の合戦に多く登場しないため、一般にはあまり知られていないかもしれません。

しかし彼らは日本の中世史においてきわめて重要な役割を担っていたのです。

赤松氏は室町幕府の成立に大きく貢献し、その功績から幕府の「四職」に数えられ、播磨・備前・美作の三国の守護を務めました。

また、室町幕府6代目将軍・足利義教を暗殺した嘉吉の乱は、幕政に深刻な影響を与え、結果的に応仁の乱の遠因のひとつにもなりました。

本書は、そうした赤松氏の中世における動向を、人物と時系列に沿って描いた一冊です。

著者は兵庫県立歴史博物館の学芸員で、中世梁間を専門とする研究者です。

描写は史料に基づきつつ、学術的ながらも読みやすく整理されています。

序盤では、鎌倉期に赤松氏がどのように台頭し、南北朝期には赤松円心が足利尊氏を支えて室町幕府成立にどのように関わったかが示されます。

続く観応の擾乱では、円心の子の則祐が混乱する情勢をいかに生き延びたかが語られます。

中盤のハイライトは嘉吉の乱です。

赤松満祐による将軍暗殺事件が大きな転換点として描かれます。

事件の衝撃で一度は赤松家が滅亡し、その旧領が宿敵の山名氏に与えられますが、後継者の赤松政則が再興を目指して動き出します。

この「旧領回復問題」が細川勝元の政治戦略と結びつき、山名宗全との対立を深め、結果として、細川と山名の対立構造が固まり、京都で応仁の乱に繋がります。

教科書では畠山家の家督争いが原因として語られることが多い応仁の乱ですが、赤松領をめぐる抗争が火薬庫の一つだったことを本書は描き出します。

終盤では、戦国期が取り上げられ、赤松氏が再興した後の地域支配や、在地武士との主従関係が描かれ、「室町幕府の守護がどのように名目化していくか」、そして「戦国期も一定の権威を持ち続けた」ことが具体的に理解できます。

本書の魅力は、一族のドラマを追うだけでなく、地域社会の変化と政治史が交差するダイナミズムを浮かび上がらせることにあります。

特に、氏族がどんどん広がっていって味方になったり敵になったり変動していく様は、まさに中世氏族の歴史です。

赤松氏を通して室町時代を読むと、将軍を中心とした単線的な歴史ではなく、複数の勢力が生まれ、せめぎ合う立体的なな時代像が見えてきます。

赤松氏という視点から見ることで、室町・戦国時代の歴史が一気に立体的になります。

中世における一つの一族の興亡を味わってみてください。

おすすめの人

・兵庫、山陽の歴史に興味のある方
・室町、戦国期の歴史、特に勢力の興亡に興味のある方

あと一冊

ポイント

本書の終盤に播磨に現れる羽柴秀吉。彼の播磨攻略戦を特に城郭から研究した書です。本書の続きの時代となるので、どのように播磨の戦国時代でどのような城郭が活躍したかを知りたい方におすすめです。

  • この記事を書いた人

yutoya

書肆北極点店主。本を紹介する人。本が好きです。一冊読んだら十冊読みたくなる、本がつながっていく感じも好きです。

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