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『シベリア3万年の人類史 寒冷地適応からウクライナ戦争まで』

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書誌情報

・タイトル:『シベリア3万年の人類史 寒冷地適応からウクライナ戦争まで』
・著者:高倉浩樹
・出版社:平凡社
・発売日:2025/7/18
・定価:3400円+税
・ページ数:231頁

目次

はじめに
序 先住民の視点からの〈シベリア〉
第Ⅰ部 人類史におけるフロンティア
第1章 極地への移動と適応
第2章 古代文化と国家との遭遇
第3章 民族・言語の分布と歴史
第Ⅱ部 寒さに応答する民族社会
第4章 不平等な狩猟採集社会
第5章 狩猟と牧畜
第6章 宗教と世界観
第Ⅲ部 人新世時代の困難と希望
第7章 植民地化と近代化
第8章 エスニシティと先住民運動
第9章 グローバル化と気候変動
結 ロシア・ウクライナ戦争とシベリア

感想

本書は、広大なシベリアを舞台に人類の歴史を3万年というスケールで描き出す一冊です。


シベリアは「極寒の辺境」としてイメージされますが、本書はその固定観念を覆し、多様な文化や人々が織りなしてきた豊かな歴史を鮮やかに浮かび上がらせます。


著者は長年にわたりシベリア各地でフィールド調査を行ってきた人類学者であり、考古学や文化人類学、歴史学の成果にとどまらず、近代史や現代社会の変化までを網羅する視点は著者ならではです。

本書の特徴は、先史時代にさかのぼる人類の移住や環境適応の歴史と、近現代の社会変動を同じ地平で描いている点にあります。


シベリアにおける暮らしは常に寒冷地への適応の歴史であり、トナカイや魚といった資源は単なる食料にとどまらず、移動手段や交易、文化的象徴として人々の生活を支えてきました。


また、その文化・言語・生活様式は、政治的支配や交易、移住を通して絶えず変化を遂げてきたことが示され、シベリアが決して停滞した地域ではなく、むしろ変動と交流の舞台であったことが強調されます。

さらに本書は、ウクライナ戦争など現在進行形の国際情勢に触れ、シベリアがいまどのような文脈に置かれているのかをリアルタイムで描写している点も大きな魅力です。

歴史の長い射程と現代の生々しい状況を結びつけることで、読者シベリアを「過去の土地」ではなく、「現在も動き続ける場」として捉えることができます。

全体を通じて感じられるのは、シベリアをめぐる人類史が一貫して「変化」と「適応」によって形づくられてきたという視点です。

3万年の時間を横断する叙述は壮大でありながら、具体的な生活や資源利用に根差しているため、読み手に確かなリアリティを与えます。

シベリアを理解することは、人類が環境や歴史にどう向き合ってきたかを理解することでもあると思いました。

あと一冊

ポイント

こちらの書籍も、著者が広大なシベリアを歩き回り、様々な人々と出会ってきた軌跡を描き出します。いいことも悪いこともあって、リアルなシベリアの現在地に触れることができる一冊です。

  • この記事を書いた人

yutoya

書肆北極点店主。本を紹介する人。本が好きです。一冊読んだら十冊読みたくなる、本がつながっていく感じも好きです。

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