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『「あて字」の日本語史』

2025年9月8日

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書誌情報

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・タイトル:『「あて字」の日本語史』
・著者:田島優
・出版社:法蔵館
・レーベル:法蔵館文庫
・発売日:2025/5/9
・定価:1300円+税
・ページ数:328頁

出版社リンク

目次

はじめに
[導入編]
1 ようこそあて字の世界へ
2 メディアのあて字を眺めてみれば
3 国語辞書ではあて字はどのように扱われているか
[歴史編]
1 異国のことばを書き写す(古代のあて字①)
2 日本語を漢字で書く(古代のあて字②)
3 文字を使いこなす(古代のあて字③)
4 和語と漢語の結びつき(古代のあて字④)
5 自立語を漢字で書く(古代のあて字⑤)
6 あて字の認識(中世のあて字①)
7 真名で書く(中世のあて字②)
8 整版印刷と振り仮名(近世のあて字①)
9 漢語の口語化と漢字執着(近世のあて字②)
10 西洋との出会いと白話小説(近世のあて字③)
11 漢字平仮名交じり文への統一(近代のあて字)
12 戦後の国語政策とあて字(現代のあて字)
参考文献・引用文献
おわりに
文庫版 おわりに

感想

本書は、「あて字」を切り口に日本語の歩みをたどる専門的な内容の本です。

専門的とは言っても、内容も文章もわかりやすく、多くの人が読める本となっています。

私たちが日常的に目にするキラキラネームや歌詞に現れる表記から、古代文献や近世の出版物にいたるまで、あて字がどのように生まれ、どのように受け継がれてきたのかが丹念に研究されています。

元々は、2017年6月に風媒社より出版されたものを、今回法蔵館文庫に収められました。

本書を読むと、あて字というものが単なる「珍しい表記」ではなく、日本語史を貫く大きな要素であることに気付かされます。

そもそも平仮名や片仮名の成立にあたっても、漢字を音に当てる工夫が重要な役割を果たしました。

文字が先にあって意味に添えられたのではなく、まず音があり、その音にふさわしい文字を「当てる」という発想が、日本語の文字文化の根底にあるように思いました。

音から始まるという発想から日本語史を見直すと、今までの固定観念が一気に覆されるような衝撃を受けました。

確かに戦国時代の文書を見ていると、人名などは字よりも音の方が優先されている印象があることや、ひらがなのくずし字を読む際には一つの平仮名に対応する複数の字母を覚えること、ある時期まで黙読よりも音読が主流であったことなど、様々なことが思い起こされます。

本書を読んで、一つひとつのあて字の背後に、時代の言語観や読者の姿が映し出されていることを考えさせられました。

あて字の歴史は想像以上に複雑で、日本語の歴史そのものを凝縮した存在なのだなと知りました。

日本語史や精神文化史に興味のある方におすすめです。

あと一冊

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ポイント

日本における漢字の受容から近現代の漢字簡素化までを通史的に描いた一冊です。中国で生まれた漢字がどのようにして日本語・日本文化に適応していったか、影響を与えたかを歴史的に研究しています。

  • この記事を書いた人

yutoya

書肆北極点店主。本を紹介する人。本が好きです。一冊読んだら十冊読みたくなる、本がつながっていく感じも好きです。

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