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書誌情報
・タイトル:『「科学的に正しい」の罠』
・著者:千葉聡
・出版社:SBクリエイティブ
・レーベル:SN新書
・発売日:2025/10/8
・ページ数:288頁目次
まえがき
第1章 "科学的な正しさ"の罠
第2章 なぜ事実はゆがめられるのか?
第3章 事実から正しさは生まれるのか?
第4章 なぜ正しいと思い込んでしまうのか?
第5章 "客観的"な事実はありうるのか?
第6章 事実は一つえはないのか?
第7章 どのように事実は偽装されるのか?
第8章 偽装された事実にだまされない方法
第9章 "科学的な正しさ"のための立場表明
あとがき
感想
ネットでよく聞く言葉に、「疑似科学」や「陰謀論」があります。
最近では、そのような言説がネットのみならず現実世界に張り出してきている感覚があります。
以前ならそういった怪しげなものは「科学的な正しさ」が退けていたように思います、少なくとも私はそう思っていました。
しかし、最近はどうにも抑えきれていないように感じます。
なぜ「科学的に正しい」は以前ほどの力を持てなくなったのでしょうか?
その答えの手掛かりを求めて本書を手に取りました。
著者は長らく進化生物学と生態学の研究をされてきており、一般向けの新書も複数出版されておられます。
本書の前半では、世界の過去に起きた科学を巡る問題が次々と紹介されます。
悲劇が大きく印象深いのは、旧ソ連における農学者ルイセンコの問題です。
ルイセンコは、遺伝学を否定する科学としては到底正確とは言えない学説を引っ提げて現れ、国家の権威との結びつきの中で、既存の遺伝子学を攻撃しました。
その結果、正統的な遺伝子学者は弾圧され、ソ連農業の収穫量は劇的に落ち、多くの飢餓者を出しました。
ここで重要なのは、ルイセンコの説が間違っていただけではありません。
間違いを科学的に検証する機能が実効性を持たなかったこと、政治的な要因で農業政策を支配したことが社会に深刻な侵害を与えることに繋がりました。
著者はこの疑似科学による支配の悲劇は、どの時代、どの政体であっても起こりうると指摘します。
本書の終盤で、このような実例を踏まえた上で、科学の信頼性を守れるのかを考えていきます。
私たちは「科学」を、価値判断から隔離された無菌室のように扱いがちです。
しかし現実の科学は、人間が行うものであり、予算や制度、名声、政治、メディア、そして社会の期待と絡み合っています。
だからこそ、科学の信頼性を守るには「科学を信じろ」では足りません。
むしろ、科学が信頼に足るための手続きを社会の側が理解し、支える必要があります。
著者が提示する答えはある意味、当たり前で、それでいてとても難しいことであるように思いました。
しかし、我々はそれをやっていかなければ「正しさ」のない未来を迎えることになります。
本書は一般向けの新書として発売されており、さらに文章や構成はとても分かりやすく書かれています。
それでいて、ただ科学と社会の関係に関する問題を紹介する本ではなく、読者に対して「科学的に正しい」とはどういうことかを深く問いかける内容となっています。
これだけ巧みに作られた本はなかなかありません。
簡単なテーマではありませんが、一気に読んでしまいました。
さらに本書が問いかける疑問は、科学の世界だけに留まらず、政治や国際情勢などにも通じるのではないでしょうか。
その点でも本書は多くの人に勧められる本となっています。
これからは科学のニュースを、ちゃんとめんどくさがらず人任せにせず、自分の考えを持って受け止めようと思いました。
ぜひとも、一歩立ち止まって「科学的に正しい」について考えてみてください。
おすすめの人
・科学と社会の関係に興味のある人
・疑似科学、陰謀論がどうやって広がるのかを知りたい人
・「科学的に正しい」に違和感を感じる人