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書誌情報
・タイトル:『本朝妖怪年代記 日本史の忘れもの。』
・著者:工作舎(編)
・出版社:工作舎
・発売日:2025/6/28
・ページ数:492頁目次
前口上 勝者になれなかったものたちへ
参考資料
壱 鬼神の領土 天地開闢から南都荒廃まで
弐 怨霊の都城 平安遷都から武門擡頭まで
参 天狗の政権 鎌倉幕府から吉野室町まで
肆 乱世の群妖 応仁の乱から豊家滅亡まで
伍 穢土の出来 東都建設から浪士討入まで
陸 耽奇の界隈 富士噴火から皇居炎上まで
漆 物語の終焉 露国来航から黒船維新まで
納め口上 妖怪年表データベースの先駆け――小松和彦
元号目次
出典一覧・参考資料
索引
感想
妖怪たちの存在は、古代から現代に及ぶまで、日本人の生活に深く根ざしてきました。
それは生活者に浸透した事象であり、政治史や制度史といった大きな歴史の流れではしばしば無視されてきた存在でした。
しかし彼らはちゃんと存在していましたし、今も存在しているのです。
本書は、そうした歴史の合間に現れる妖怪や怪異の記録を集成した、極めてユニークなレファレンスです。
年代記の名の通り、本書は年表形式で構成されており、例えば以下のような項目が並びます。
斉明四年[658]「出雲国で、雀が海へ入って大量の「雀魚」と化した(『日本書紀』)」
記述は、「神代」から始まり、「伊弉諾、伊弉冉が産んだ句句廼馳、樹木の祖神となる」が最初の項目です。
そして最後の項目は明治天皇の籤引きによる元号の選定で、実質的には江戸時代の終わりをもって締めくくられます。
本書は藤澤衛彦氏の「妖怪年表」の約600項目をベースにし、さらに日文研の「怪異・妖怪伝承データベース」を始めとする様々な民俗学資料などから出来事を採取しています。
その結果、全体では2500項目以上という驚異的な量の年代記となっております。
さらに各ページには細かい注記や解説があって、詳しい解説を加えており、より深く事象を理解する助けとなっています。
編者は本書を一言でこう説明しています。
「『正史』が『勝者による歴史である』とするなら、本書は想像力の歴史であるとともに、『勝者になれなかったものたちの歴史』である」(p.3前口上より)
本来なら打ち捨てられていた歴史だったからこそ、この年表の一つ一つの事象は妖しい光を放ち、魅力を帯びているのですね。
私は昔からこういった話がとても好きだったので、本書はとても興味深く、そして楽しく頭から最後まで読めました。
通読するだけでなく、超大物妖怪の両面宿儺や酒呑童子などがいつ現れたか調べたい時は、索引から簡単に確認することができます。
索引だけでなく、出典一覧も充実して、非常に実用的な一冊と言えます。。
現代では、怪異ですら輪郭のはっきりした具体的なものとして捉えられがちですが、本来の怪異というのはなんだかよくわからなくて、不条理で説明不能な出来事なのだと思います。
例えばこういった話。
「熊本の某が池を干そうとしたが、水はあまり減らず、水底から人が現れ『各々ご苦労』と言って消えた。同時に池は水でいっぱいになった。」(「玉名郡史」p.312)
この短い一文に、意味不明かつ不条理な展開が込められていてクスッと笑ってしまいます。
こういう話に日本人の想像力の豊かさを感じます。
また、こちらも面白かったです。
「伊予の富豪が妙円寺の西側の池[桝洗池]で桝を洗うと、たちまち貧乏になった。また横谷の毘沙門の加護を得て財を成した飢山[勝山]の某が、その財物が多いために苦しんでいた。ある人に教えられ、この池に行って桝を洗い、底を叩くと、その者は次第に貧乏になり、ついには餓死してしまった。」(「伊予温故録」p.70)
これも不条理でいいですね。
桝洗っただけで貧乏になる点もそうですが、財物が多くて苦しんでいる、というのも意味不明です。
こういった面白い話が日本の歴史にはたくさん埋もれているので、ぜひとも本書でその一端を味わわせてくれる一冊と言えるでしょう。
また、版元の工作舎は装丁の美しさで有名ですが、本書もその例に漏れず美しいデザインです。
表紙、本の作りがいいのはもちろん、読者の読みやすさが重視され、各ページのデザイン・レイアウトも凝っていて手間暇かかっているなと感じました。
版元の方々は作るのは大変だと思いますが、こんな美しい本がもっと増えるといいですね。
ぜひ本書を手に取り、妖怪・怪異を通して明らかになる豊饒な日本の文化に触れてください。
おすすめの人
・妖怪、怪異、怪談、伝承が好きな人
・日本史を違った角度から見たい人
・創作する人