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書誌情報
・タイトル:『コーヒー2050年問題』
・著者:武田淳(著)
・出版社:東京書籍
・発売日:2025/7/8
・ページ数:255頁目次
第1章 コーヒー産地に迫る危機
第2章 コーヒーの基礎知識
第3章 コーヒー2050年問題とは何か
産地への影響―中東・アジア編
産地への影響―カリブ海編
産地への影響―中南米編
産地への影響―アフリカ編
第4章 描き換わるコーヒー産地の地図
第5章 コーヒーを味わい尽くす
あとがき
感想
私はコーヒーが好きで普段からよく飲んでいます。
だからこそ、本書のタイトルを見た時、思わずぎょっとしました。
一体「2050年問題」とは何なのか。
そんな疑問を持って本書を読み始めました。
著者は文化人類学者であり、JICA海外協力隊として長年コスタリカに滞在し、コーヒーの生産者たちと関わりを持つようになりました。
その中で気候変動によって収入が減少し不安を抱える農家や、最近の気候のおかしさを案ずる生産者たちと出会います。
そうした声を受け、気候変動がコーヒー産業にもたらす影響を真正面から考えるようになったそうです。
本書が取り上げる「コーヒー2050年問題」とは、Christian Bunnの論文で指摘された、世界を襲う気候変動によって、「2050年までに世界中のコーヒーの適作地域が半減する」というものです。
もし予測通りになれば、私たちが日常的に飲んでいるコーヒーが手の届きにくい存在になるかもしれません。
本書では、まずコーヒーの基礎知識がわかりやすく整理され、その上で各国のコーヒーの歴史と気候変動の現状が語られます。
本書で紹介される世界各国の状況を見ていくと、気候変動はもはや「いずれ起こる危機」ではなく、すでに現在進行形の問題なのだということがひしひしと感じられました。
しかし一方で、コーヒーの未来を守るため、気候変動に対して行動を起こしている人たちも本書では数多く紹介されています。
例えば、気候変動で現在の適作地が不適作になる一方、新たに適作地に変わる地域もあり、そういった新しい地域での栽培に可能性を見出す人がいます。
そんな努力の中には日本で行われているものもあり、徳之島や沖縄、本州でもコーヒー栽培に挑戦する人々がいます。
また気候変動に対応できそうな新しい品種の開発を志す人もいます。
従来のコーヒーは、アラビカ種とロブスタ種の2種類が占めていましたが、これとは別の新たな種が気候変動に対応できる可能性を持っているそうです。
さらにコーヒーの豆だけではなく、全体をより効率的に生かそうという動きもあります。
コーヒー豆を採る際に、周りの果肉や果皮は廃棄されますが、近年それを茶にするなどして生かそうという機運が高まっています。
元々イエメンなどでは伝統的にそういった活用法が行われてきたため、実現性は十分にあり、すでにスターバックスで2017年に商品として販売されたりもしています。
こうした動きは、コーヒーの未来を少し明るくしてくれるように思えます。
また本書ではコーヒー文化に関する興味深い話題も多く登場し、印象に残りました。
例えば「コピ・ルアク」です。
コーヒーの実から豆を出す工程「精製」には主に自然乾燥方式と水洗式の2つのやり方があります。
しかし、これに加えて「動物による精製」という手段があるそうです。
なんとそれは、動物にコーヒーの実を食べさせ、排泄された糞の中から豆を取り出すというやり方です。
そのやり方で採ったのが高級な豆として知られる「コピ・ルアク」なのだそうです。
たとえばコロンビアでは、家族経営が基本のコーヒー農家同士が、収穫や加工の作業を支え合ってきました。
その相互扶助の精神が「カフェテラ文化」として根付き、地域社会を形づくる重要な要素となっています。
コーヒーはただの嗜好品ではなく、文化とコミュニティを生み出す存在であることがよくわかります。
本書は、コーヒーの未来に横たわる厳しい現実を提示しつつ、同時に未来へ向けた可能性も丁寧に描き出しています。
そのため読後には重苦しさはなく、むしろ「この一杯を大切にしたい」という前向きな気持ちが残ります。
コーヒーを愛する者として、そして気候変動という現実に向き合う一人の読者として、多くの気づきを与えてくれる一冊でした。
おすすめの人
・コーヒーが好きな人
・環境問題、気候変動に興味のある人