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書誌情報
・タイトル:『GROWTH 「脱」でも「親」でもない新成長論』
・著者:ダニエル・サスキンド(著),上原裕美子(訳)
・出版社:みすず書房
・発売日:2025/8/20
・ページ数:484頁目次
はじめに
第Ⅰ部
1 罠
2 脱出
第Ⅱ部
3 優先事項化
4 約束
5 代償
第Ⅲ部
6 GDP役割最小化主義
7 脱成長
第Ⅳ部
8 成長を解き放つ
9 新しい方向
第Ⅴ部
10 大いなるトレードオフ
11 道徳的問い
おわりに
感想
元アメリカ合衆国大統領のオバマ氏は読書家で知られ、半年ごとに自分の読書リストを公表しています。
そのリストに2024年に選ばれたのが本書です。
著者はイギリスの経済学者で、テクノロジーが社会に与える影響を研究し、AI時代の仕事や経済についての著作でも知られる新進気鋭の研究者です。
本書では、政治でもビジネスでも頻繁に掲げられる目標「経済成長」について、その歴史と意味を根本から問い直していきます。
著者によると、人類史のほとんどの時間、世界の経済は停滞していたそうです。
それが成長を始めたのは約200年前の1800年頃からで、劇的に伸び始めたのは20世紀に入ってからです。
そして、私たちが今日あたりまえに語る「経済成長」という概念が社会全体の目的として意識されるようになったのは、この半世紀のことなのだそうです。
人類史の大半で、人はそもそも「経済成長」を考えていなかった、という指摘にはなかなか驚きました。
私たちが当然視する「経済成長」というアイデアが、ごく最近現れたものにすぎないことがわかります。
では、なぜ「経済成長」が急に重大な目的となったか。
著者は第二次世界大戦以降の世界を辿りながら、成長が政治と社会にどのように絡みつき、人々の生活を形作って生きたのかを鮮やかに描き出します。
成長は希望でもあり、同時に犠牲を伴うものでした。
そして、「経済成長の約束と代償、そのバランスが、経済成長がつきつけるジレンマ(p141)」だと示します。
それはつまり、成長には恩恵がある一方で、格差や環境問題などの「代償」も生み出してします。
このジレンマからどう抜け出すかが、本書の主題です。
後半では、従来の「成長か、脱成長か」というに二項対立を乗り越え、「よりよく成長する」という新しい方向性が提示されます。
アイデアやイノベーションを通じて、成長の「質」を変えることができる。
そして、その変化を起こす主体として「市民」を位置づけるところが本書の熱量を感じるところです。
読み終えて感じたのは、「成長は善か悪か」という議論自体が、今を捉えておらず、時代遅れになっていることです。
大事なのは成長をやめることでも、盲目的に追いかけることでもなく、「どう成長するか」「どこへ向かって成長するか」を考えることなのだと気づきました。
簡単な本ではありませんが、「成長ってなんだろう」という疑問に答えてくれる本です。
またこれからの社会や経済の向かう方向を教えてくれます。
多くの人に読んでほしい本です。
おすすめの人
・成長ってなんだろう、と思う人、あるいは今の社会の前提を疑っている人
・政治、行政、経済に携わる人
・現代社会で生きる全ての人