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書誌情報
・タイトル:『マンションポエム東京論』
・著者:大山顕
・出版社:本の雑誌社
・発売日:2025/6/20
・ページ数:344頁目次
はじめに
第一章 マンションポエムとは何か
1 マンションポエムは何を「隠して」いるか
2 マンションポエムの文法的特徴
3 マンションポエムはいつからあるか
4 タレント起用と埋立地開発
第二章 消費財化する街
1 街のスペックと序列
2 住民は街の「お客様」になる
3 「緑」ポエムの「フラットさ」
4 恋愛とポピュラーソング、結婚とマンションポエム
5 マンションポエムに残るバブル
第三章 マンションポエムと鉄道
1 吊革につかまって都市を把握する
2 東京は「田んぼ」
3 どこまで東京?
4 マンションポエムは「電車住宅」を目指す
第四章 垂直に伸びた郊外
1 聳え立つ「裏面」
2 垂直に伸びた郊外
3 武蔵小杉のタワーマンションに住む鴨長明
4 超高層住宅住民への「怖れ」
5 ポエムが隠す「うたかた性」
6 「世界は自由に想像できる。」
あとがき
感想
本書は本の雑誌にて連載された記事をまとめて一冊にした本です。
そのテーマは「マンションポエム」。
「マンションポエム」とは、新築分譲マンションの販売時に打ち出される広告の中に記述される、あの不思議な文章のことです。
間取りや価格といった具体的な情報よりも、「静寂を、抱く」「空へ還る住まい」など抽象的・象徴的な表現で、購入希望者にポエムのような文体でアピールするあれです。
著者はおそらくほとんどの人が見てない、あるいは覚えていないであろうこういった広告コピーに「マンションポエム」という名前をつけて、長年収集分析してきました。
その数、1648件。
確かな数に支えられた分析は、始まりはただの広告のコピーだったとしても、最終的にはスケールの大きい東京論・都市論へと展開していきます。
例えば、第一章では「マンションポエムは何を表しているのか?」という疑問から始まります。
著者は、何を「表している」のかではなく、「表していない」のかに注目します。
その隠されているものとは一体何なのか。
この考察を通じて、著者は言葉の背後に潜む都市やビジネスの「論理」を浮かび上がらせます。
また第四章では今流行のタワーマンションと郊外との関係について踏み込んでいます。
ここにも意外な関係があることがわかり、都市の構造とそこで暮らす人々の価値観を明らかにします。
こういった様々な考察を積み重ねた先に、東京という都市の特異性が立ち現れます。
これだけの情報量を堅固な理論に収束させているところに、著者の力量の高さが現れています。
個人的に印象に残ったのは第三章で、東日本大震災の際に著者が行った「帰宅ログ」の調査です。
3.11の際に、都内では帰宅困難者が大量に発生しました。
著者はあの日、その帰宅の様子を詳細に追跡し、彼らがどれだけ苦労しながら帰ったかを記録したのです。
その記録「帰宅ログ」から、「いかにぼくらが東京を方角ではなく『吊革につかまって何分か』で把握しているか(p147)」ということが示されます。
確かに私の周囲にも、3.11の際に歩いて30分の所を電車を待って4時間かかったという人がいました。
その人はダイアグラムの地図しか頭に浮かばなかったのだと思います。
著者はさらに、我々が無意識に「方向音痴」であること、東京を理解する時に皇居が軸となっていることなどにも触れます。
普段考えてもみなかったことでしたが、指摘されれば心当たりがたくさんあります。
こういった気づきが多いことが、本書の面白さです。
本書は都市論ですが、広告批評、社会学、交通研究など、広範なジャンルに広がっていく意欲的な本です。
ジャンル分けが難しいほどに多層的な内容ですが、それこそが本書の魅力です。
また、この不思議な文章を連載させた本の雑誌の懐の広さを強く感じました。
かつて雑誌はこういったジャンル分けできないような文章の集まりでした。
その時代の面白さを久々に思い出した本でした。
マンション広告を切り口に、東京を見る視点が変わる本です。
多くの人に読んでもらいたいなと思います。
おすすめの人
・マンションを買った人、これから買う人
・広告に興味のある人
・東京論、都市論に興味のある人