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書誌情報
・タイトル:『クーデターー政権転覆のメカニズム』
・著者:上杉勇司
・出版社:中央公論新社
・レーベル:中公新書
・発売日:2025/7/23
・ページ数:288頁目次
はじめに
第1章 クーデターとは何か―一撃による非合法の権力奪取
第2章 発生要因と成功条件―成功の見込みと軍の決意
第3章 21世紀の権力奪取―五つの特徴
第4章 クーデター抑圧策―多角的なアプローチの必要性
第5章 決起後の課題―暫定政権の樹立から民政移管へ
第6章 治安部門改革―クーデター抑圧のメカニズム
第7章 2・26事件―歴史から学ぶ教訓
第8章 日本外交の支援策―クーデターをなくすために
終章 クーデターの可能性と限界―民主化への道か混乱か
感想
平和な日本に暮らす私たちにとって、「クーデター」という言葉はどこか遠い出来事のように感じられます。
しかし本書は、その「非日常」を冷静に分析し、世界と日本の現実に引き寄せて様々な事例を基に考えさせてくれる一冊です。
著者は紛争研究の専門家であり、クーデターを「政権の権力者を一撃で交代させる行為と定義します。
それは「革命」「内戦」「暴動」「テロ」のいずれとも違った現象として位置づけられ、権力構造の内側で生じる突発的な転覆の本質が明快に描かれます。
本書は、戦前、戦後、冷戦期、ポスト冷戦期、そして21世紀に至るまで、成功したものから失敗したものまで、多彩な事例を検証しています。
著者はこれらの事例から発生要因と成功条件を明らかにし、さらに21世紀型クーデターの5つの特徴や、決起後の課題を示します。
SNSや資源、民間軍事会社など、21世紀特有の要素がいかにクーデターの形を変えつつあるかを示す分析は示唆に富みます。
さらに本書が面白い点は、権力者側から見たクーデター抑止策に一章を割いていることです。
本章を読むとクーデターを起こすことも難しいですが、完全に防ぐことも相当困難であるという現実が浮かびます。
また日本の読者に分かりやすいように二・二六事件の章が設けられ、本書で提示されたクーデターの視点から見た二・二六事件が詳しく分析されています。。
日本では過去も含めてクーデターのような事案は少ないイメージでしたが、この章を読むと決してそうではなかったと分かります。
さらに日本に限らずどんな国であってもクーデターはいつでも起こり得て、平和の陰にはクーデターへの導火線があり、政情が不安定な国ならその危険はさらに高まることがわかります。
現実にアフリカなどではクーデターが頻発しており、さらに内戦へと突入する国もあります。
日本人も他人事と思わず、その危険性を認識することが大切だと思いました。
一方で著者はクーデターの分析だけでなく、それを防ぐためにやるべきことも提示しています。
特に日本の外交がクーデターを防ぐためにできることを明確に示していることは希望を与えてくれます。
おすすめの人
・国際情勢、現代史に興味のある方
・「平和とは何か」を考えたい方
・「国家」を作りたい、ないし再建したい方