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書誌情報
・タイトル:『ローマ帝国とアフリカ カルタゴ滅亡からイスラーム台頭までの800年史』
・著者:大清水裕
・出版社:中央公論新社
・レーベル:中公新書
・発売日:2025/8/25
・ページ数:236頁目次
はしがき
序章 カルタゴの滅亡と北アフリカの人々
第一章 共和政期の属州アフリカ
第二章 カルタゴ再建とマウレタニア王国の滅亡
第三章 属州民の見たローマ帝国
第四章 アフリカ系皇帝の時代
第五章 アフリカ教会とラテン語のキリスト教
第六章 古代末期のローマ人たち
終章 アフリカから見たローマ帝国
あとがき
邦語参考文献
写真出典
感想
ローマ帝国といえば、ローマを中心としたイタリア半島や、後のコンスタンティノープルを中心とした東ローマ帝国といった地域を中心として語られます。
しかし本書では、あえてその「南」の視点、すなわちアフリカからローマ帝国を見るという試みがなされています。
近代以降の歴史叙述は、しばしばアフリカを周縁化し、ヨーロッパを中心とする史観に偏ってきました。
本書はその史観にに疑問を投げかけ、ローマが一方的にアフリカを支配したのではなく、アフリカこそがローマを支え、時に影響を与えていたのではないかと論じます。
豊富な碑文や文献資料をもとに、その仮説を丁寧に実証していくのが本書の魅力です。
古代の北アフリカといえば、まずはカルタゴですが、序章ではローマ帝国によるカルタゴ滅亡とその意味について検討します。
続く章では、共和政期のローマによるアフリカ支配の始まり、ユグルタ戦争、帝政期への移行にともなう退役兵の処遇、マウレタニア王国の属州化といった出来事が時系列に沿って語られます。
このように属州アフリカの歴史が語られるのですが、それぞれにローマ本国の問題が絡んでいたり、影響を与えたりしていたことが明らかにされます。
とりわけ印象的だったのが、北アフリカがローマの穀倉地帯として帝国の食料供給を支えていた点です。
ちなみにコンスタンティノープルを支えていたのはエジプトだったようです。
また、キリスト教の思想家・教父のアウグスティヌスの存在も重要です。
彼の思想はローマ帝国におけるキリスト教に深い影響を与え、北アフリカが文化的にも重要な役割を果たしていたことを示しています。
そして極めつけは皇帝の輩出で、それが193年に即位したセプティミウス・セウェルス帝でした。
彼はカルタゴの勢力下にあった都市の出身で、ポエニ語が第一言語でした。
かつての敵対勢力の出身者の皇帝就任の背景には、アフリカ系の元老院議員の増加があったといいます。
この出来事はローマが一律の文化を持つのではなく、複合的で多様な文化を持っていたから起きた、と著者は考えます。
かようにアフリカはただの被支配地ではなく、ローマを支えた重要な地域だということが、様々な視点から語られます。
そして何より、北アフリカの人々が「ローマ人」として生きていたことが描き出されます。
本書を読むと今までとは全く違うローマ史を知ることができます。
ちなみに本作にはエジプトはほぼ出てきません。
現代で言うと、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコの辺りが扱われます。
このエリアを中心にした本は珍しく、その点でも貴重な本です。
アフリカ史に興味のある方はもちろん古代史、地中海世界を知りたい人にもおすすめです。
おすすめの人
・世界史、アフリカ史、ローマ史、地中海世界に興味のある方