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『商人の戦国時代』

2025年10月10日

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書誌情報

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・タイトル:『商人の戦国時代』
・著者:川戸貴史
・出版社:筑摩書房
・レーベル:ちくま新書
・発売日:2025/8/7
・ページ数:277頁

目次

はじめに
プロローグー戦国時代の商人とはどういう存在だったのか?
第1章 戦国金融道―京都商人の栄枯盛衰
第2章 ほんとうの「楽市・楽座」―兵庫・堺・博多・伊勢大湊
第3章 新興商人vs.特権商人―利権だらけの中世
第4章 御用商人たちの暗躍―商人的活動を担った大名家臣
第5章 大名たちの経営戦略―「資源大国」日本
第6章 世界史の中の戦国時代―貿易を担った商人たち
エピローグー新旧の秩序がせめぎ合った戦国時代
あとがき
参考文献

感想

昔、「太閤立志伝5」というゲームがありました。

武将や商人、海賊などさまざまな立場になって戦国時代の世を生き抜いていくというゲームでした。

これがとても面白くて、時を忘れてやり込みました。

そこには多くの商人が登場し、自ら商人としてプレイしてのし上がっていくこともできました。

彼らはゲームの中で武将に負けない重要な存在でした。

そんな商人たちのリアルな姿に迫るのが、本書『商人の戦国時代』です。

著者は、日本中世史・貨幣経済史を専門とする歴史学者で、過去に『戦国大名の経済学』などを著した戦国経済史の専門家です。

本書では、史料に基づきながら、戦国を生きた商人たちの息づかいを見事に描き出していいます。

読んでいて感じたのは、史実を知る楽しさもありましたが、「戦国を生きる商人の現場」に立ち会っているような感覚でした。

日本のみならず、中国や東南アジア、北方までを縦横無尽に駆け巡る商人たちのしたたかな動きから、ダイナミックの経済ネットワークが浮かび上がってきます。

構成は明快で、各章が独立したテーマをもっています。

プロローグの冒頭では、近江国における保内商人と五箇商人の争いが紹介されます。

第一章では、商売には付き物の「利権」についてその起源から、室町戦国での実態を史料から解き明かします。

続く第二章では、織田信長に伴ってよく現れる「楽市・楽座」がどういったものかを検証します。

実は信長はそれほど「楽市・楽座」を重視していなかったことが浮き彫りになり、楽市と楽座はそれぞれ性格が違うことが見えてきます。

第三章では、再び保内商人と五箇商人の争いを詳細に検証していきます。

こちらは利権を持つ商人と新興商人の戦いと言うことができます。

その熾烈な、嘘も金も飛び交う争いを経て、利権が崩されていく様はまるでドラマのようで、この本で一番の読みどころです。

第四章では大名の御用商人と海賊たちの活動を追い、御用商人たちが海賊、修験者、大名家臣といった身分を併用しながら日本全国で商業活動をおこなっていた実態が明かされます。

第五章では、資源、特に金銀の採掘や大名による開発の実態、第六章では商人たちの海外での活動が検証され、スケールの大きな16世紀アジアの経済史が展開します。

どの章においても、商人たちの混沌とした世界をたくましく渡り歩くしたたかさが感じられます。

巻末の参考文献も充実しており、さらに読み進めたくなる本ばかりが並びます。

全体を通じて、史料の精読と先行研究への深い理解に支えられており、そのおかげでリアルな戦国時代が再現できているように感じます。

史料を突き詰めて読むことは決して無味乾燥なことではなく、当時の息吹を感じるものだと実感させられました。

利権を握る商人も、新興商人も、彼らと取引する大名や公家も、みな各々の思惑の元にしたたかに立ち回っているのですね。

最近の新書の中にはタイトルと内容が合っていないものもありますが、この本はまさにタイトルの通りの内容です。

ぜひ本書を通して史料の向こうにある、戦国時代のリアルな空気を味わってください。

おすすめの人

・中世史、戦国時代、特に商人の動向に興味のある方
・経済史に興味のある方
・東アジア交流史に興味のある方

あと一冊

ポイント

15世紀後半になぜか北京でも朝鮮半島でも日本でも贅沢が流行った時期があったそうです。それを追ううちに浮かび上がる「東アジア経済」。その相互の影響と流れを考察した本です。まさに「商人の戦国時代」と共鳴する内容。本書が気に入った方はぜひ次に手にとってみてください。

  • この記事を書いた人

yutoya

書肆北極点店主。本を紹介する人。本が好きです。一冊読んだら十冊読みたくなる、本がつながっていく感じも好きです。

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