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書誌情報
・タイトル:『光の美術 モザイク』
・著者:益田朋幸
・出版社:岩波書店
・レーベル:岩波新書
・発売日:2025/7/23
・ページ数:222頁目次
はじめに―泥まみれのモザイクから話は始まる
1 モザイクを見る
2 永遠の美術―モザイクとは何か
3 歴史をたずねて―古代からキリスト教へ
4 宗教、歴史、美術が交差するところ―ラヴェンナに行こう
5 モザイクをつくる
6 モザイクを壊す
7 聖母マリアの哀しみ
8 近代美術とモザイク
読書案内
おわりに
感想
モザイクとは、辞書的に言うならば、小片の石・ガラス・陶片などを組み合わせて模様や絵を描く技法、またはその作品のことを指します。
著者によると、それは「均一の色彩からなるピース(多くの場合は正方形)を並べて、イメージを構成する絵画技法」であり、かつ「硬質の、永続性をもつ素材のピースによって、イメージを作り上げる」もの、というのがモザイクの定義になります。
本書は、そのモザイクを美術史の視点から解き明かしていきます。
各章はテーマごとに構成され、読者は地中海世界を旅するように、そのテーマに沿った作品に出合います。
壁や天井を覆うモザイクは、外光や燭台の明かりを受けて絶えず表情を変え、鑑賞者に動的な体験を与えます。
油彩画のように固定された一枚のイメージではなく、空間と時間、さらには鑑賞者の位置によって揺らぎ続けるという特性があるのです。
この視点は、モザイクを静的な装飾とみなしがちな先入観を覆し、その独自の芸術的性を鮮やかに浮かび上がらせます。
同時に、著者はモザイクは必ずしも「芸術」ではないとも指摘します。
モザイクは無名の職人によって作られ、固有名をもたない作品だからこそ、そこに耳を傾けてモザイクにしっかり向き合えば、その声が聞こえてくると言います。
またモザイクの歴史についても深い洞察が行われています。
モザイクというとビザンティン美術のイメージが強いですが、起源は古代ローマ、さらにさかのぼればギリシア世界にまで至ります。
現存する多くのモザイク作品はキリスト教をテーマにしています。
一方でモザイクが「永遠の絵画」であるがゆえに、古代の作品も残っています。
両者を見比べてみると、中世のキリスト教世界でも古代の異教のイメージが通奏低音のように鳴り響いていることが見えてきます。
ここで印象に残ったのは、シチリアの邸宅のモザイクに仏教美術の影響が確認できる点です。
遠くインドと地中海世界はやはり繋がっていたということを示す一例でしょう。
本書では他にもモザイクの作り方や、逆に壊し方なども語られ、そして近代における美術への影響の復活が考察されます。
モザイクと銘打った本書ですが、その話題はギリシアやローマの生活や異教、中世のイコノクラスムから近代美術まで、歴史・宗教・美術と扱う範囲は多彩です。
この豊穣な内容は新書ならではです。
美術に興味のある人はもちろん、歴史や異教、キリスト教などに興味のある方にも読んでいただきたい本です。
おすすめの人
・美術、特にローマやビザンティンの美術に興味のある方
・ローマ史や東ローマ史に興味のある方
・キリスト教に興味のある方